暗い。暗い。暗い。暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い…

視界を覆いつくす一面の黒。否、それは黒ではない。時間が経ち凝固した赤い液体だ。凝固した赤い液体は黒ずみ、辺りを染めていた。

転がり横たわるモノが目に入る。そのモノ達の鼓動はとうに切れている。少し前までは時を同じくしていたというのに…残るはただ一人。あとは自分一人だけ…

いや、それは違った。そこにはもう一人誰かがいた。照明が切れているせいで辺りは暗い。おかげでその人の顔は見えない。だが、白い服を着ていることだけは分かる。それにもう一つ。その手には黒光りする何か(・・)が握られていた。

あれはなんだろう? 少し考えてすぐにやめた。考えたところで意味なんてない。

じゃあ、彼は何? 少し考えてすぐにやめた。考える必要なんてない。

その姿を見たのは初めてなような気もするし、そうじゃない気もする。だが、自然と()がなんであるかは分かった。

――彼もきっと同じだから。

ここにいる以上、それ以外に考えられない。ここにいるのは皆同じもの。同じことをされ、同じように扱われる。誰一人違う者はいない。皆一緒で、皆繋がっていた。

――あ…そうだった。

…そう思っていた。

だがそれはある一人を除いてのことだと知ってしまった。目の前にいる彼こそがその唯一の例外だった。彼も自分たちと同じはずなのに彼だけは他の誰とも違っていた。無意識のうちにそうなのだと気づいてしまった。もとより彼だけが特別だった。だって彼だけ繋がっていなかったのだから。

「君で最後だ」

彼がこちらを見つめてくる。哀れみを含んだその眼差しが人間らしいと思った。

あれ? なんでそんなことを思ったのだろう。もしかしたら、そんなことを思う自分も人間らしいのかもしれない。

…いや、それはないだろう。自分も他と同じで何も変わらない。違うのは自分が最後ということだけ。

ゆっくりと彼の腕が持ち上がっていく。それと同時に黒光りする何かも一緒に上へと上ってくる。黒光りするソレには穴が開いていた。何の穴だろう?

そんなことを考えていると、

「ねぇ…」

彼の声が聞こえてきた。

「君は生きていたい?」

彼が不思議なことを言ってきた。

(生きて、いたい?)

彼が何を言っているのかよく分からない。よく分からないから首を傾げた。

(そもそも生きるって何?)

「そう…君も他の子たちと同じなんだね」

真っ直ぐに見詰めてくる彼の目には何も映っていなかった。

――一緒だ。

そのときの彼の目は自分たちと一緒だった。

「僕もね…まだわからないんだ。でも、これだけはわかる。僕たちみたいな作りものは、この世に存在しちゃいけないんだ……だから」

そう言って、彼の指に力が入った。

――あ…

パンッという乾いた破裂音が聞こえてきた。

最初にその音を聞いたときから不思議な音だと思った。音が聞こえるごとに繋がりが消えていく。こんな音は始めてだった。だから気になって数を数えだした。

そういえば、これは何度目の音だったろうか。最初は三回、次が二回、その次は七回、その次は………もうどこまで数えたか忘れてしまった。

――まぁいいか。

所詮はどうでもいいことだ。どうせ、もうすぐ自分も同じになる。鳴った音は一回で、残ったのは自分一人…つまりはそういうことだ。

支えを失った体がぐらりと傾き、前へと倒れこむ。傾いた体は音を立てて床にぶつかった。

――冷たい…

ひんやりとした感触が伝わってくる。床というのはこんなにも冷たいものだったのかと始めて思った。始めて感じた。

――彼は?

顔を上げれば彼の顔が目に入った。

「ごめん……ごめんね…」

彼の目から何かが流れてきた。

(それ…涙?)

何時だったか、それは涙というもので眼球に入った塵を外に洗い流すものだと白い人が言っているのを聞いたことがある。じゃあ彼は目に塵が入ったのだろう。

「こうすることでしか、僕たちはきっと救われないんだ…」

彼の言っていることは分からない。でも分かる。彼は怒っている。何に? 彼だけが違うから? もしそうなら悪いのは他でもない自分たちだ。自分たちが失敗だったのが悪いんだ。失敗だったから、何も持ってなかったから…だから持っていた君は特別になった。君は特別だから出来損ない(自分たち)にはできないことをやっていたんだ。

――あ、れ…?

だんだん視界がぼやけてきた。

嗚呼、この感覚を自分は知っている。あのときと…意識が落ちるときと似ているのだ。

なんだ…そういうことか。彼がしていたのはあれと同じことだったのか。でも何で繋がりが消えたんだろう? いつもはそんなことはなかったのに。

まぁいいか。次に戻ってきたらそこには何事もなかったように見慣れた光景が待っているはずだ。

いつもの光景。白い人たちが険しい表情で何かをしていて、自分たちはただ繋がっていて…

意識が落ちていく。鼓動が消えていく。

そして、全てが……………………………………

 

 

 

君が為に輝ける星 外伝〜The truth of a counterfeit