姉たちを待ち続けてかれこれ一時間余り。

――そうだよね…そう簡単に帰ってくるわけないよね。

なにせ今、あの二人はデートの真っ最中なのだ。もう一人にそういう意識がないのは残念ではあるが。きっと楽しい時間を過ごしているに違いない。

それに比べて自分は公園のベンチで男の子と二人っきり。これはこれでそれっぽくは見えるわけで。

――違う違う! そう…! これは事故よ。事故。

そう自分に言い聞かせたのもこれで何度目だろう。

「はぁ…」

ジオは未だに膝の上で眠っている。さすがにもうこの状況にも慣れてきた。恥ずかしいのは相変わらずだが、少しは周りが見えるくらいには落ち着いてきた。

気がつけば公園には数えるくらいの人の姿しかなく、遠くを見れば昼食を終え、午後の仕事へ向かう大人たちの姿や遊び足りない子どもをあやしながら連れていく母親の姿があった。

ひとしきり辺りを見渡し、気分を落ち着かせたところで再び目線を下に移した。

「当分、起きそうにないわね」

何気なく膝―正確には太腿―の上に載せられた頭にそっと手を伸ばした。

「…っ…ん…」

白く透明な髪に手が触れた瞬間、ジオのうめく声が聞こえてきた。

――ヤバッ!? もしかして起しちゃった…?

咄嗟に伸ばした手を引っ込めるものの、その後ジオが起きてくることはなかった。

「あー、ビックリした」

ホッと胸を撫で下ろす。

「それにしても…」

本当によく寝ている。これだけ深く眠っていればちょっとやそっとのことではまず起きないだろう。

「ちょっと悪戯でもしてやろうかしら」

こんな恥ずかしい目に遭わせている癖に自分はそんなことお構いなしにぐっすりと夢の中だ。少しくらい仕返ししたっていいはずだ。

「ちょっとくらいなら別に…」

そう考えた次の瞬間、ふと気付いてしまった。思い返せば、この少年がこんな無防備に眠っているところを見たことがなかった。

別にまじまじと寝ているところを見ていたわけではない。

決して同い年くらいだからちょっと話してみたくて、何か話すきっかけでもないかなぁって部屋を覗いたら、たまたま寝ているところに出くわしちゃったとか…ちょっと打ち合わせがしたくて探してたら、格納庫で整備してるって聞いて、向かってみたらコクピットの中で眠ってたとか…別に狙ったわけじゃないんだから。

それは置いといて…大抵そういう場合、決まって声をかける前にジオが目を覚ますのだ。仕事上深く眠れないとか、気配を感じると起きる癖がついてしまったとか、本人は言っていたが本当かどうかはわからない。

とにかく何が言いたいかというと、ジオがこんなに長い間誰かに寝顔を見せていることが意外だということだ。

――それだけ疲れてたってことかな…

思い返せば、ジオはいつも傭兵として仕事をこなしていた。海賊たちと戦い、戦いが終わるとすぐさま次に備える…それの繰り返しだった。

「そんなんじゃ、疲れても当然か…」

改めてこの少年の凄さを実感する。この年齢ですでに一人前の傭兵として生計を立てている。その上、機動兵器での戦いでは圧倒的ともいえる程の腕を持っている。だというのにそれを鼻にかけることもせず、それが当り前のことのように振舞っている。

一体どんな人生を送ってきたのだろう。少なくとも真っ当な道ではなかったはずだ。でなければ傭兵なんて危険で不確かな仕事をしているわけがない。見る限り、戦うことが好きそうようには見えない。なぜ傭兵だったのだろう。

「私、あんたのこと全然知らない」

何が好きで、何が嫌いのか。

趣味は。

なぜ傭兵になろうと思ったのか。

……なぜそんなにも儚く見えるのか。

「あんたのこと、知りたい」

例え、傭兵と依頼人という一瞬の付き合いだとしても…

「だから、早く起きなさいよ」

そう言いながらもアルトは優しくジオの頭を撫でていた。